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2007年01月30日

ふゆみずたんぼ

聞きなれない言葉ですが「ふゆみずたんぼ」とは,冬の田んぼに水を張ることで施肥効果や抑草効果,害虫対策などを得て稲を育てる,無農薬無肥料の伝統の稲作農法のことです。江戸時代の頃は「田冬水(たふゆみず)」と呼ばれており,その後は「冬期湛水水田」と呼ばれてきましたが,馴染みにくいということで近年「ふゆみずたんぼ」という言葉が使われるようになりました。

ふゆみずたんぼ2.JPG


この「ふゆみずたんぼ」は全国各地で復活する兆しにありますが,宮城県北部でも広い範囲の水田が「ふゆみずたんぼ」となっています。その「ふゆみずたんぼ」の中心には蕪栗沼(かぶくりぬま)という沼があります。干拓事業により今はずいぶん小さく(150ha)なってしまっていますが,かつては北上川本流の巨大な自然遊水地でした。その沼に隣接する地区にはしらとり地区と呼ばれる湿地(50ha)があります。この湿地は10年前までは水田でしたが,関係者の合意のもと浅く水を張って沼に復元されました。この沼と湿地とに隣接する周辺の水田が,「ふゆみずたんぼ」として復活したのです。

ふゆみずたんぼ.JPG


「ふゆみずたんぼ」の特徴は,様々な種類の生物が生息していることです。春はカエルやメダカ,夏はトンボや水草やクモ,秋はイナゴやカマキリ,そして今の季節の冬は,白鳥や雁や鴨などの渡り鳥です。この蕪栗沼を中心とした「ふゆみずたんぼ」は,10万羽の雁が越冬する日本を代表する渡り鳥の越冬地となり,一昨年(2007年)11月に,国際的に重要な湿地を守るラムサール条約湿地にも登録されました。

私は今年,この「ふゆみずたんぼ」のカレンダーを使っています。各月を代表する田んぼの生物がイラストや写真で解説されていて,綺麗で楽しいカレンダーです。3月はカエル,7月は水草,11月は雁(ガン)など。

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以下は,この冬の沼を中心とする湿地と「ふゆみずたんぼ」の様子です。
沼で眠るマガンやオオヒシクイの群れです(左)。一見わかりにくいのですが,ツブツブしているのがすべて鳥です。マガンは翼を広げると最大150cm,オオヒシクイは190cmにもなる大型の水鳥で,姿はカモに似ていますがカモよりはハクチョウに近い仲間です。ガンの仲間は本来とても警戒心が強く,また環境に敏感な鳥のため,ガンのいるところはそれだけで環境が豊かであるという証拠となります。マガンの生息には沼と水田がセットになった環境が必要ですが,全国各地の沼が消滅したため,この周辺に9割以上が飛来してきています。そのガンが危険を感じないため,近くをトラクターが作業していても飛び立とうとしません(右)。人間と鳥が共存できていると言えるのでしょう。

沼ガン.JPG

トラクター.JPG


湿地の様子(左)。ハクチョウやカモが泳ぐ上空をトビが舞っています。猛禽類(右;トビ)は食物連鎖の頂点におり,猛禽類が多数いるということは,食物連鎖を形成する下のレベルの生物が多数いることを物語っています。

しらとり食物連鎖.JPG

トビ.JPG


ガンは,日中は沼の岸辺で眠ったり田んぼで落穂を拾って食べたりしていますが,夜間はねぐらである沼にいます。夜明け,何万羽という雁がいっせいに飛び立つ様は一度見たら忘れられません。写真左は,しかし,それを知らずに日中ここに来てしまった人のための立て札。夕方まで待てば,夜明けほどではありませんが多数でねぐらに帰る様子が見られます。「いっせい」には及ばないけれど,小さな群れで飛び立つガン(右)。

看板.JPG

群れ.JPG

他にもサギの仲間などの水鳥が多数いるので(左),羽毛もいろいろな種類がたくさん落ちています(右)。一日集めれば枕くらいにはなるかも知れません。

サギ.JPG

羽毛.JPG

ここの近くには縄文時代の遺跡(左)や貝塚(右)も多く出土しています。縄文の時代から人と生物が共存してきたのだとしたら,その環境を後世に残していくのは私たちの使命だと思っています。

遺跡.JPG

貝塚.JPG


投稿者 watanabe : 2007年01月30日 22:53

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コメント

「ふゆみずたんぼ」ということば、初めて知りました。

自然の水辺の保全だけでなく、休耕水田を冬期湛水して、ラムサールに登録されるほどの環境を、人為的に造り出したことに感動しました。水鳥のサンクチュアリーというだけでなく、伝統的稲作農法と結びついているところも素晴らしいと思います。
落ち籾を食べに水田に飛来した冬の水鳥の糞が肥料となったり、水鳥が雑草の種を食べることによって除草効果が現れたり……と、ほんとうに肥料や除草剤を使わなくても稲作が可能になっていくといいと思います。水田が化学肥料や農薬の汚染から開放されて、ますますメダカや水生昆虫類や住みやすい環境となり、それらを餌にする鳥類がさらに集まってきて糞をたくさん落としていき……。
模式図的にうまくいくと楽観はできないと思いますが、循環型の環境共生農業の実現に少しでも結びついていくといいなあ、と思いました。

投稿者 MCAT : 2007年01月31日 01:34

MCATさん,いつもコメントありがとうございました。
「ふゆみずたんぼ」で作ったお米は,無農薬無肥料ということで人気があるそうです。味も良いらしい。実は,農家の人たちは,初めガンなどを保護する冬期湛水に反対していたそうです。それは,ガンなどは米を食べる「害鳥」と考えられていたからです。でも,ガンのいる田んぼは環境にも人体にも良いということが世界的に認められていることを理解するに従って,ふゆみずたんぼへの理解も深まり,遂にはラムサール条約に登録するまでに至ったということでした。そこには,循環型社会を目指す時代の流れというものもあったと思いますが,根底にはやはり自然を愛する心が根付いていたのではないでしょうか。困難は多いと思いますが,ふゆみずたんぼのお米の価値を世間がもっと認めるようになればこの運動はさらに定着し,全国に展開も広がっていくのではないでしょうか。期待するとともに,私のできることから(米やカレンダーを買うなど)協力していきたいと思っています。

投稿者 ひよこ : 2007年01月31日 19:02

ふゆみずたんぼを広める運動に一票です。素敵なことですね。私もカレンダーがほしいです。とてもきれいです。
本当に、田圃は大切で、人も生物も地球もたくさん恩恵を受けていますよね。真剣に考えていかないと、私たちの明日の食料は危機に瀕していると思います。

それにしても仙台にまたまた驚かされてしまいました。

投稿者 shiratori : 2007年02月02日 19:02

白鳥さん,一票ありがとうございます。このカレンダー,絵柄は変わりませんが,曜日が3年分入っている3年カレンダーになっているんです。農業を営む人が使いやすいようにって。そういえば,学生の頃,夏休みのアルバイトで信州のレタス畑の農家に毎年1ヶ月ほど住み込んでいたのですが,そこのおじさんが3年日記をつけていて,「去年は明日種まきしたなあ」とか言っていました。農家の人にとって3年は一単位のようです。

仙台(性格には仙台市からはずれているものたくさんあるので宮城ですが)って,面積は決して広くないのですが,都会(exメディアテーク)あり,山(ex蔵王連峰)あり,田んぼ(exふゆみずたんぼ)あり,温泉(ex鳴子郷)あり,海(ex松島湾)あり,島(ex気仙沼大島)あり,でとてもバリエーションに富んでいます。今回,季節柄,海や島はご紹介できませんでしたが,何もなさそうでいて奥の深いところです。若者には物足りないと思いますが,会社人生の先が少し見えてきた年齢には味のある街ですね。

投稿者 ひよこ : 2007年02月02日 20:47